職業別の離婚事例について
ここでは職業別の解決事例について解説します。
サラリーマン
特徴としては,自営業に比べて収入が給与明細や源泉徴収票から明らかになりやすい。ただし,零細企業に勤めている場合,離婚紛争に際し,養育費の支払いを減らすために社長にかけあって,実際よりも少ない収入を記載してもらうような場合もあるので,紛争になっていないときの給与明細や源泉徴収票を保存しておいたほうが良い。
また,通常は社会保険に加入しているので,年金分割も忘れずに行ったほうが良い。会社に財形貯蓄を行っている場合もあるので,そのような場合は会社に貯蓄額を照会してもらうなどしてその金額を明らかにするほうが良いだろう。
公務員
サラリーマンと同様に,収入が明らかになりやすい。また,共済年金に加入しているので,この年金分割も忘れずに行ったほうが良いこともサラリーマンと同様である。また,収入のごまかしは行われないので,その点の心配はない。
特徴としては,公務員としての身分保証がなされており,通常の企業と比べても解雇されづらいことから,退職金について将来支給されることがほぼ確実であるとして,分与対象に挙げやすいことが言える。退職金については,将来支給されることがほぼ確実である場合に分与対象として認める傾向が強くなっている。
自営業
養育費算出の基礎となる収入の算定は基本的には確定申告書によることになるが,経費を過剰に計上するなどの会計処理をしている場合もあるので,実際の収入について,あらかじめ通帳への入金額や家計収支表を作成しておいて把握しておくのが良いだろう。
また,財産分与の割合は現在では基本的に2分の1ずつが原則的になっているが,経営者の特別な力量により高収入を得た結果蓄積された財産については,2分の1にならず,取り分が4割や3割になってしまうことがある。
配偶者が従業員として働いている場合も多いが,実際に居づらいかどうかという点をおけば,離婚自体が解雇理由になることはないので,従業員配偶者は望めば引き続き働くことができる。ただし,配偶者が取締役で,株式の過半数を保有していない場合は,株主総会によって解任される恐れはある。その場合でも,取締役の任期中での解任は許されない。
医者
医者の場合,特に開業医の場合は高収入であり(平均年収約2500万円というデータもある),保有する財産も多様である場合が多いため,財産分与が問題となることも多い。ゴルフを趣味にしている場合,ゴルフ会員権も一時期よりは大分値下がりしているとはいえ一定額の価値を有するため,把握しておく必要があるだろう。また,資産を用いて医業以外の副業を行っている場合もあるので,そのような副業を行っていないか,いるとしたらいくら収入があるのかを把握しておくことが有益だろう。
個人開業医ではなく,医療法人の理事をしている場合には,医療法人の財産自体は分与対象の財産になりません。ただし,配偶者が同法人に貸付をしている場合にはその貸付債権が分与対象となる場合があります。また,出資持分も分与対象です。
勤務医の場合,通常勤務以外でもアルバイトで何院か病院を掛け持ちしている場合があることから,日頃から配偶者としては収入や財産について把握しておく必要が大きい。具体的には,アルバイトも含めて勤務している全ての病院を把握し,各明細を把握しておくことが必要である。
弁護士
弁護士でも,独立開業している場合は自営業者と基本的には同じ,勤務弁護士の場合はサラリーマンと基本的には同じ特徴を有するが,以下の違いがある。
まず,独立開業していても,弁護士法人の代表者をしている場合は,法人自体の財産は分与対象とはならないので注意が必要である。
勤務弁護士で確定申告を行っていない場合,勤務先からの収入以外に個人で事件を受けて収入を得ている場合があるので,配偶者がそのような弁護士の場合,日頃から個人事件はどれくらいしてどれくらい収入があるのか等を把握しておくと良いだろう。
また,弁護士は離婚事件のプロであるので,配偶者にすると心配である(不貞をうまく隠す。隠し財産を蓄える)という考え方をする方もおられると思われるが,弁護士も普通の人間であるので,特に心配する必要はない。