「婚約破棄と慰謝料請求」 弁護士 松尾研太郎 (東大阪法律事務所・大阪弁護士会所属)
「婚約破棄と慰謝料請求」
弁護士 松尾 研太郎 (本部東大阪法律事務所・大阪弁護士会所属)
1 婚約破棄に基づく慰謝料請求
婚約破棄でも慰謝料がとれるのか?といったご相談があります。
結論としては,離婚の場合に慰謝料をとれる余地があることと同様,とれる余地があります。
以下では,その慰謝料をとることのできる要件を検討したいと思います。
2 婚約とは
婚姻の予約(以下,「婚約」)とは,将来一定の時期が来たら婚姻しようなどとして,将来の婚姻を約束することです。似たようなものとして,内縁というものがありますが,内縁とは,男女が婚姻の意思をもって共同生活を営み,社会的には夫婦と認められる実体を有しているにもかかわらず,婚姻届がなされていないために法律上の夫婦とは認められない関係をいいます。 したがって,いずれも婚姻の意思がある点は同じですが,共同生活のない婚約とは区別されます。
3 婚約の成立
法的に言えば,交際中に「将来結婚しよう」などの口頭のやりとりがあっただけでも婚約は認められ得ます。 もっとも,言った言わないの以外の問題として,真に二人の間で将来の婚姻の意思があり,その合意がなされたと言えるのかを判断するには,客観的な証拠が必要となります。裁判例においては,その客観的な証拠から導かれる様々な事情を総合的に判断して,婚約が成立していたと言えるかを認定します。この様々な事情には,当事者が口約束で婚姻を約束したこと,互いの両親への挨拶,両家の両親同士も含めての挨拶,結婚式の予約,婚姻後の新居の準備,婚姻を予定した上での同棲などの事情が考えられます。これらの事情を総合考慮して,真に婚約が成立していたと言えるのかを判断します。
4 婚約破棄に正当な理由のないこと
婚約は,将来において適法な婚姻をなすべきことを目的とする契約であって,その結婚の強制こそできないものの,契約違反(婚約破棄)に正当な理由がないならば,損害賠償責任が生じ、その損害賠償には精神的損害の賠償(慰謝料)も含みます(最高裁昭和38年12月20日)。そのように結婚の強制はできないので,当事者の一方的な通告で婚約は破棄出来ますが,正当な理由なく婚約を破棄した場合には慰謝料が発生します。 どのような場合に婚約破棄が正当と認められるのかについても,裁判においては,客観的な証拠から導かれる様々な事情を総合的に判断されます。この判断については,離婚が問題となる場合の「婚姻を継続しがたい重大な事由」の判断と重なってきます。もっとも,離婚がそれに至るまでの婚姻生活の積み重ねを前提とするのに対して,婚約破棄はそれに至るまでの生活の積み重ねといったものがないため,離婚の場合と比べて,婚姻破棄の正当性が認められやすいと思われます。具体的には,婚約成立後の不貞行為、暴力・暴言,経済的状態の急変等の理由により,今後婚姻をすることが社会通念上困難な状態となると認められれば,婚姻破棄の正当性ありと認められます。
5 最後に
このように婚約破棄は,離婚の場合と似たような判断構造をとるものと言えます。他方で,法的な婚姻関係があることの明らかな離婚の場合と異なり,婚約は当事者同士の合意でしかないため,そもそも婚約が成立していたのかから争いになることが多くあります。当事者同士では解決することが困難であることも多いと思いますので,まずはお気軽にご相談いただけたらと思います。