【コラム】「婚姻費用、養育費における収入額」弁護士法人i(奈良法律事務所・奈良弁護士会所属弁護士)
「婚姻費用、養育費における収入額」
弁護士 市ノ木山朋矩 (奈良法律事務所・奈良弁護士会所属)
1 はじめに
「婚姻費用」とは、婚姻中に家族が生活するためにかかるお金をいい、
「養育費」とは、離婚後に子を監護する親が、
子を監護しない親から支払いを受けるお金をいいます。
これらは、夫婦の合意があればその金額が婚姻費用及び養育費となりますが、
合意が成立しない場合には、夫と妻それぞれの収入、子どもの人数及び年齢を基準として
定められるものです。子どもの人数及び年齢は客観的に決まるものであり、
かつ、争いようもない事実ですが、ここで問題となるのは、夫婦双方の収入額です。
夫婦の収入額を何に基づき判断するかは、婚姻費用及び養育費の金額を定めるにあたり、
非常に大きな意味を持ちます。
そこで、今回は、婚姻費用及び養育費を算定するにあたって重要視される夫婦の収入額について
お話します。
なお、以下では、典型的な場合として、夫婦のうち、夫の方が収入が多く、
かつ、妻が子を監護している状況を前提にさせていただきます。
2 夫の収入の判断方法
夫の収入については、源泉徴収票や確定申告書、給与明細などによって、
前年度又は今年度の総収入額を基準とします。
無職者の場合は、無職になったのが直近の時期であれば、従前の収入を参考にするほか、
失業保険の受給額を基準とすることも考えられます。
また、これらのいずれも基準とするのに適切でない場合には、
全年齢平均の賃金センサスを基準とすることもあります。
3 妻の収入の判断方法
妻の収入については、妻も仕事をしているのであれば、夫の場合と同じ基準となります。
他方、妻の場合は、家事や育児をしながらパートやアルバイトをしていることもよくあります。
この場合でも、妻の収入額としては、パートやアルバイトの収入額を基準とし、
家事を金銭的に評価することは原則として行いません。
では、妻が家事や育児のみを行っている場合、
つまりいわゆる無職の場合はどうなるのでしょうか。
この場合、上述の考え方からすると、収入はゼロであるように思えます。
しかし、一つ検討すべきことがあります。
それは、パートやアルバイトをしている兼業主婦も家事や育児を行っているということです。
つまり、専業主婦も、兼業主婦と同じように働こうと思えば働けるともいえるわけですので、
この場合は、妻の「得ることができた」収入を考慮することがありえます。
具体的には、統計調査からわかる、当該妻の年齢に基づく短時間労働者の平均収入額が
基準とされることが考えられます。
つまり、実際には仕事をしていない妻であっても、
仕事をしていれば得られたであろう収入として、
例えば100万円を超える収入があったものと見なすという運用がされることがあります。
これを、夫の側から見ますと、妻にも「得ることができた」収入が一定程度ある以上、
これを加味したうえでの婚姻費用及び養育費を算定するべきと主張することができますので、
その結果、妻に支払うべき婚姻費用及び養育費の金額を少なくするための
主張をすることができます。
他方で、妻の側から見ますと、「得ることができた」収入を認定されてしまうと、
夫から支払われるべき婚姻費用及び養育費の金額が減ってしまうため、
そうならないように、妻が仕事に行くことができなかった事情を主張して、
妻に「得ることができた」収入などないということを主張することが考えられます。
具体的には、障害を有する、介護しなければならない親がいる、
目を離すことができない幼い子どもがいるといった事情を主張して、
妻が仕事に行くことができなくてもやむを得ないと主張していく方法があります。
4 最後に
婚姻費用及び養育費は、
支払う必要がある夫側、支払ってもらう必要がある妻側のいずれにとっても、
日々の生活設計をするうえでとても重要な事項となってきます。
これらの金額を、より自らにとって有利なものにするためには、
主張していくべき事情がいろいろ考えられます。
ただ、主張すべき事情がケースによって様々ですので、
「自分の場合はどう考えたらいいのだろう」と疑問に思われた方には、
ぜひ当事務所にご相談いただきたく思います。